野球肘は、年齢的な発育状態と発症部位で分類されます
プロ野球の日本一が決定した後、プロ野球選手は、一年間プレーした身体を休め、自らの身体のケアに勤しむ、自分に足りない部分を強化する時期がシーズンオフなのであります。
プロの選手であってもアマチュアであっても、障害を抱えると十分なパフォーマンスは発揮できませんし、痛みに苦しまなければなりません。プロの選手もこのオフの時期に十分なケアをしなければ、来シーズンに間に合わない場合もあり、この時期になると選手の手術等のニュースを目にするのが増えるのであります。
まず、野球肘とはどういうものか。という事について述べてみようと思っております。野球肘は患者さんの年齢層により発育型野球肘、成人型野球肘、障害の部位から内側型野球肘、外側型野球肘、後方型野球肘に分類されます。
発症の時期による二つの分類
野球の投球動作の繰り返しによって肘関節に生じる疼痛性障害の総称で、その中には肘関節の多くの病変が含まれます。発症の時期により、まず、二つに分けられます。
発育型野球肘(はついくがたやきゅうひじ):成長途上の骨端(骨の両端にある軟骨や成長線を含む部位)を中心とする骨軟骨の障害。
成人型野球肘(せいじんがたやきゅうひじ):成長完了後の関節軟骨や筋腱付着部の障害。
また、障害の部位から内側型、外側型、後方型に分類されます。
1.内側型野球肘
投球動作では、コッキング期からアクセレレーション前期に腕が前方に振り出される際、肘に強い外反ストレス(肘を外側に広げようとする力)が働き、さらにその後のアクセレレーシュン期からフォロースルー期には、手首が背屈(手の甲側に曲がること)から掌屈(手のひら側に曲がること)に、前腕は回内(内側に捻ること)するため、屈筋(手や指を手のひら側に曲げる筋肉)・回内筋(前腕を内側に捻る作用を有する筋肉)の付着部である上腕骨内側上顆(肘の内側にある骨性の隆起)に牽引力が働きます。この動作の繰り返しにより、内側側副靭帯損傷、回内・屈筋群筋筋膜炎(肘内側に付着する筋腱の炎症)、内側上顆骨端核障害(内側の成長線の障害)などが起こります。
2.外側型野球肘
投球動作のコッキング期からアクセレレーション前期における外反ストレスによって、腕橈関節と呼ばれる肘関節の外側に圧迫力が働き、さらにフォロースルー期で関節面に捻りの力も働きます。このストレスの繰り返しにより生じるのが外側型野球肘であり、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎、橈骨頭障害などがあります。
3.後方型野球肘
投球のコッキング期における外反ストレスと減速期からフォロースルー期にいたる肘関節伸展強制によって、肘頭(前腕の内側側の骨である尺骨の近位端で、肘を曲げたときに後方に突出する部位)は上腕骨の後方にあるへこんだ部分(肘頭窩)に衝突するようなストレスを受けます。この動作の繰り返しにより、肘頭疲労骨折や骨棘形成(衝突により反応性に骨、軟骨の増殖、隆起が生じるもの)が起こります。
基本的にこういう分類になるのですが、今回は、主に内側型野球肘について書いてみたいと思います。今年一年、当院に来院された野球肘の患者さん、内側型のCT、MRI画像を元に説明したいと思います。
ケース1 中学生野球選手:発育型野球肘・内側上顆骨端核が離開
中学生野球選手のCT画像
中学生野球選手のCT3D画像
発育型野球肘であり、内側上顆骨端核が離開し、骨端核障害に陥る可能性があります。
ケース2 中学生野球選手:発育型野球肘
中学生野球選手CT画像
中学生野球選手CT3D画像
ケース1と同様に、発育型野球肘。内側上顆骨端核が離開し、骨端核障害に陥る可能性があります。
ケース3 大学生の投手:成人型野球肘
大学生の投手のCT画像
大学生の投手のCT3D画像
上記ケース1、2の二人と違い、大学生の投手のCT画像です。成人型野球肘、黄色のマル印のあたり筋腱付着部の骨片が離れているのが確認されます。
ケース4 中学生野球選手:発育型野球肘
中学生野球選手のCT画像であります。ケース1、2と見比べて頂きたいのでありますが、ほぼ同学年である同年代の同じ右肘であり、CT画像も同一箇所あたりを切り取ったのですが、それぞれ、見事に肘関節の形が違う事に気づいていただけますでしょうか。
ケース5 小学生野球選手:発育型野球肘
唯一の小学生、MRI画像です。ケース1、2、4の画像と比較して頂きたいのですが、内側上顆骨端核は離開していますが、肘関節の関節面が整っており、そんなに肘関節に負担がかかっていない事が分かります。
今回中学生を中心に内側型の画像を見て頂いたのですが、痛みを我慢して練習を続けた場合、内側上顆骨端核が離開し、骨端核障害を起こし、将来肘関節の変形や疼痛に悩まされる可能性を理解して頂きたいのです。次回は、野球肘外側型を中心に掲載したいと考えております。